平成29年7月12日 

意見陳述書

 

原告 宮下玲子

 

 

 

 私は1969(昭和44)年、東京生まれです。結婚後は宮城県仙台市に住んでいましたが、6年前の東日本大震災後に宮崎市へ移住してまいりました。小学3年生の息子がいます。歌人として、短歌を書いたり短歌を教えたりする仕事をしています。

 

 

私は今日、宮崎で子育てをしている母親の代表としてここにまいりました。宮崎県内には、6万人をこえる小学生がいます。その母親たち、この場に来たくても様々な事情で来られなかったお母さんたちはもちろん、新安保法制を知らないお母さんたちのことも頭におきながら、ここで意見を述べたいと思います。

 

 

私たち母親は皆、子どもたちの幸せと健やかな成長を願っています。しかし、ただ心の中で願うだけでは子どもたちを守ることが難しいのではないかと感じることが、特に東日本大震災以降は、たびたびありました。その一つが、新安保法制です。法案の審議が始まった2年前、全国で「安保関連法に反対するママの会」が発足しました。宮崎では、妊娠9か月のお母さんが大きなお腹を抱えて山形屋前でスピーチをしたことがきっかけとなり、新安保法制に不安や疑問を持つ母親たちが声を上げるようになりました。ここ宮崎でも反対している母親たちがいるのだということを、きちんと声に出して示そうという彼女の訴えが、多くの人の心を動かしたのです。一方で、様々な事情から表立って声を上げることができず、見えない所で声をかけてくれたり、そっとカンパを渡してくれたりするお母さんもいました。新安保法制に不安や疑問があっても、法律の専門家でもない普通の母親が、既に国会で成立した法律に反対し、それを憲法違反だと口にするのは非常に勇気が要ることです。

 

 

私は一人の母親として、子どもとたくさん話し、一緒に遊び、絵本を読み、ゆっくりすごす時間をかけがえのないものだと感じています。食事やおやつを作り、洗濯物をほし、片付けや掃除をして家で過ごす平凡な暮らしを大切にしたいのです。また私は、歌人として短歌を作ったり、好きな本を読んだり、自由にものを書いたりする時間も欲しいのです。私たち母親の一人ひとりは、子育てや家事、仕事や趣味の時間を少しずつ削って、新安保法制に反対し、それを目に見える形で社会に示そうとしてきました。私も、これまでデモや集会でアピールし、短歌や文章を発表する中で、新安保法制に反対してまいりました。そして今回、反対の意志を一番はっきり表明できるのが訴訟の場ではないかと思い、原告になりました。

 

 

私の息子は本を読むのが大好きで、学校や図書館で本を借りてきては読んでいます。しかし私は、読書が大好きな息子の母親であることを苦しく思うことがあります。半年ほど前、息子は「今日、『まちんと』っていう絵本を読んだ。すごくこわかった」と私に訴えてきました。『まちんと』は、広島の原爆で傷を負った女の子が、母親にトマトをねだりながら死んでいく物語です。息子は自分と同じ小さい子どもが突然命を奪われたということに大きなショックを受け、自分にも同じことが起こるのではないかという不安に襲われたのだと思います。しかし今の私は、母親として「これは72年前の話だよ、こんなことが起こらないように、日本は絶対に戦争をしない国になったんだよ」と断言して息子を安心させることができません。新安保法制が施行されたことにより、戦争の放棄や戦力の不保持という憲法の理念が、言葉だけのものになってしまったと感じているからです。私自身も、最近、戦争の絵本や写真を見ることがこれまで以上に悲しく苦痛になりました。新安保法制の内容を読むと、武力によって人が傷つき命を奪われるということが、遠い国の出来事ではなく、過去の歴史の話でもなく、私たちの身近にひたひたと迫ってきている現実なのではないかと考えざるを得ないからです。

 

 

ここで、私が4年前に作った短歌を一首読ませてください。

 

・戦争はまだはじまらず子のために水筒の紐やや長くせり

 

 

水筒の紐を長くするのは、子どもが大きくなった成長のしるしです。息子の身長は4年間で20cm以上伸びました。その一方で、新安保法制の成立により、「武器使用」や「武力攻撃」という言葉が、たびたびニュースに登場するようになりました。これらの言葉が法律の中だけではなく、現実となって、成長していく息子の未来を破壊するのではないかという私の不安は、新安保法制の施行後ますます大きくなっています。それでも私は息子に「恐れるな」と言いたいです。自分自身にも「恐れるな」と言いたいです。この訴訟が、新安保法制の廃止へ向かう第一歩だと考えているからです。絵本を読んで涙ぐむほど戦争を怖がった息子の想像力が、過去の戦争に学ぶことによって、平和を実現する力に変わっていくことを、母親として心から願っています。

 

 

「誰の子どもも殺させない」というのが、「安保関連法に反対するママたちの会」の合言葉です。ここにいる誰もが、お母さんから生まれてきた子どもです。命を生み出し、それを大切に守り育てるという単純な母親の営みを壊されたくない、また、壊す側にも回りたくないという私たちの思いは、新安保法制によってすでに大きく踏みにじられています。この踏みにじられた母親の気持ちに司法が光を当ててくださるものと、私は強く信じています。